音楽だけやっていれば食べていけるのはミュージシャンのなかでもごく一部。そのような音楽家を目指すのも在り方のひとつです。
ただ、僕らのようなローカルのミュージシャンには、もっと柔軟な活動スタイルが必要なのです。
音楽だけやっていれば音楽活動が広がるわけじゃないんですね。つまり、音楽以外の知見やスキルを磨き、それを音楽活動に反映していく努力が必要です。
この章では、なぜ音楽以外のことが必要になってくるのかについて、僕の体験を踏まえてお話します。
音楽以外の学びがなぜ活きるか
ライブやコンサートを主の音楽活動と捉えているミュージシャンは多いでしょう。僕もライブが占める音楽の割合は高く、ライブに向けて音楽の7割のパワーを使っていると言えます。
となれば、音楽だけやっていればいいような気がしてきますよね。
しかし、ここに落とし穴があります。
ライブを見に来てくれるお客さんが、もしあなたの音楽に触れたいという目的のためだけに来ているのだとしたら、家であなたのCDを聞いているだけでよくなってしまいます。
お客さん目線で考えると、あなたのライブに出かけていく理由はいくつもあるんですね。音楽以外の理由をあげてみます。
・オシャレして出かけられる
・お店のおいしいスイーツを食べられる
・日常を忘れられる
・新しい情報を得られる(友達から/出演者から)
スイーツが付かないライブもあると思いますが、キーワードは「非日常」です。
この視点がすごく大切で、僕らミュージシャンが提供できることは音楽以外にもたくさんあるのです。いい音楽さえやっていれば良い、と考えてしまうとなかなかこの視点に気づけませんが、自分がお客さんだったら、演者やそのライブ空間に何を求めるかな?と考えてみるとわかりやすいと思います。
僕らは音楽に乗せて、「何を」お客さんに届けているのでしょうか?
音楽をキッカケに、イベントの主催者にどんなハッピーをもたらしているのでしょうか?
音楽という枠の外で起こっていること、すごく多いんです。音楽以外についても意識を集中させる必要がある理由がおわかりいただけましたか?
僕は、興味を持って学んだことのすべてが音楽に活きると痛感しています。
音楽以外の何を学ぶべきか
さて、ミュージシャンが音楽以外の価値も提供していくことの大切さに触れていただいたところで、実際にミュージシャンは、音楽以外のどんな価値提供を意識する必要があるのか考えてみましょう。
僕らに求められている価値を知ることで、学ぶ内容が見えてきます。
ここからは僕の実体験になりますが、いくつか例を挙げてみましょう。
1.日常のちょっとしたTips
「日常のちょっとしたTips」あまりにもふんわりした表現でわかりにくいですが、要するに”親近感を覚える話題”に振れることですね。
今世の中は、激動の時代です。何が激動か理解はできなくとも、誰もが肌で世の流れを感じています。その”感じている違和感”を代弁してあげるつもりで話を投げかけられると、一介のミューシャンを超えて「人として」興味を持ってもらえる可能性が高まります。
たとえば世の中はAIやロボットによる自動化が進んでいますよね。「AIにより〇〇年以内に40%の仕事が無くなる」なんて言われ、不安しかありません。
その不安を煽ることもできますが、現代に生きる僕らができることをライブのMCなどで話せると、お客さんに対し「なるほどなぁ」という気づきを渡すことができます。
また、昔はミュージシャン/アーティストは政治・宗教の話はタブーとされていました。その理由はスポンサーがいるからです。スポンサーの意向に反した発言は、即音楽活動の寿命を縮めます。
しかしスポンサーという後ろ盾がない僕らにょうなローカルミュージシャンまで同じように縮こまって音楽をやる必要はありません。政治や宗教の話が自分の音楽活動に必要だと思えば、どんどん取り入れていきましょう。等身大のミュージシャンには必要なことです。
何事にも無関心で浮世離れしたイメージがあなたのブランドでなければ、時事にあるていどの関心を示し、自分の意見を自分の言葉で言えるアーティストに、人は惹かれるのです。
あなたが話すことでお客さんに気づきを得ていただくには、常に勉強していなければできないことです。難しいことも簡単に説明できるよう、世の中で起こっていることの本質を理解していなければ、自分の言葉として話せません。
なんでも良いのです。
- ビジネス誌を購読する
- ニュースアプリをウォッチする
- 地方紙を読む
お客さんが身近に感じている話題に対して敏感であることは、必ず音楽活動に役立ちます。情報を仕入れる、関心を向けることそのものが、あなたの音楽活動の一つと言えます。
ライブの前に急に勉強しても”にわか知識”になりますので、日頃から心がけたいですね。
2.ファッションを学ぶ
ファッションについて学ぶ、というよりは「気を付ける」というニュアンスが強いです。
僕もわりとファッション(髪型等も含む)には疎い方で、ステージ衣装などはあまり考えずに臨んでしまうタイプでした。
しかし、お客さんはライブのためにオシャレして出かけてきてくれるわけです。それもライブの楽しみのひとつなんですよね。
演者である僕らが汚らしく、イベントの空気を台無しにするような恰好であれば、どんな良い演奏をしてもお客さんのイメージダウンは免れません。
中には「いやいや、俺は音楽で勝負してるから」とジャージやヨレヨレのTシャツでステージに上がる人がいます。音楽で勝負する以前に、ステージに上がる者としての心構えからやり直しですね。
ファッションにお金をかける必要はありません。ブランドで着飾ったミュージシャンを見たくてライブ会場に足を運んでいるわけではないはずですからね。ただ、ステージ上の僕らは「見られている」という感覚、忘れるべからず、です。
3.コミュニケーションを学ぶ
音楽以外に勉強すべきことで一番大きなテーマは「コミュケーションについて」です。
コミュニケーションのノウハウがあれば、正直他のノウハウは霞んでしまうくらい大切だと思っています。
音楽活動は言い換えればコミュニケーション活動です。ミュージシャンと主催者、ミュージシャンとお客さん。そこに人間同士の関係が存在する限り、コミュニケーションは避けて通れません。
避けて通れないどころかコミュニケーションの上に音楽活動が成り立ってると言えます。
コミュニケーション方法にもいろいろありますが、考え方はシンプルで「相手のことを考える」「相手目線に立つ」「相手を喜ばせる」といった”利他の気持ち”で接することが、コミュニケーション能力を高めるコツです。
相手の気持ちを考えられれば、知識をひけらかすこともなく、自分ばかりが気持ちよくなることもなく、お客さんやイベント主催者と対等になれます。
僕自身まだまだ不完全で、コミュニケーション・イロハの「イ」にも到達していない段階だと思っています。
しかし、コミュニケーションの大切さを意識し始めたこと、そしてコミュニケーションにはノウハウがあることを知ったことで、ずいぶん人との折衝が楽になりました。音楽活動においても確実に成果が出ています。
「コミュニケーションのノウハウ」と言ってしまうと、なんだか人間関係をテクニックで良くしようと聞こえてしまいますが、相手に「テクニックが使われてる」と思われてしまう方がダメージが大きいです。
つまり、円滑なコミュニケーション方法を知り、それを心から実践できることが何よりも大切です。日本人には「おもてなしのこころ」があると言われていますが、この相手を尊敬する心と、相手の立場を考える気持ちがあれば、多少の言葉遣いや所作で失敗しても大丈夫です。
心を尽くせば、伝わるのが人間関係の良さです。
4.マーケティングを学ぶ
コミュニケーションと同じくらい大切なテーマが「マーケティング」です。
マーケティングと聞くと、集客を想像される方がいるかもしれません。マーケティングにはもちろん集客の側面もあるのですが、「売り込まずに売れる仕組みづくり」と考えるとわかりやすいでしょう。
売り込まずに売れる・・・音楽活動においてもまさに理想の状態ですね。その状態を作っていく取り組みがマーケティングです。ものを売るだけでなく、自分自身を売るときにも役立つメソッド・ノウハウ、学ぶ価値があると思いませんか?
現代はもう「楽曲の良さ」だけで勝負できる時代では有りません。
売り方・見せ方もアーティスト自身が学び、自分の活動に活かしてこそ、あなたの音楽を「届けたい人に届ける」ことができるようになります。
アーティスト・ミュージシャンには自分の見せ方や情報発信に苦労している方が多いため、マーケティングを正しく学ぶことで、自分らしく自分をPRする方法を学びましょう。
まとめ
- あなたが届けているものは音楽とそれ以外
- 学ぶ内容はお客さんとの接点に関係すること
- 学ぶのはあくまでも心意気。テクニックではない
音楽以外の学びが、あなたの音楽で喜ばせたい方々に寄り添った内容になっていれば、じわじわとその効果が現れてくるでしょう。
お客さんやイベント主催者の反応がよくなったり、ライブオファーが増えたり、何かしらのアクションが起こります。
紹介した内容をなぞってうまくいくケースもあるでしょうし、それでは逆効果なこともあり得ます。大事なことは自分で考えて実践すること。答えは、あなた自身が持っています。
音楽にまつわることすべてが音楽活動です。自信を持ってチャレンジしてください。