いよいよ最終章です。
この章では、11章までの「考え方・捉え方」をあなた自身に落とし込む際に障壁となる「プライド」について触れます。
無いようで、誰にでもある「プライド」
タイトルでは「プライドを捨てる」としましたが、当然ミュージシャンとして捨ててはいけない部分もあります。
大切なことは、「誰のために、何を捨て、何を残すのか」ということです。
信念を貫くことで失うものがないか考える
ミュージシャンにとって「信念(音楽をやる理由・こだわり)」はとても大切です。
しかし、その信念を盲目的に貫くことで失っているものがないか?という視点は非常に大切になります。
僕自身の体験をもとに具体例を挙げてみましょう。
僕は「オリジナル曲こそがミュージシャンの個性だ!」と考え、オリジナル曲しか演奏しない音楽活動を長いこと続けていました。
戦略として、オリジナル曲をプッシュする路線は有りだと思います。しかし、それはオリジナル曲に需要がある、もしくは需要を作り出せてこその話。
僕はそれまで、
「あなたの声で〇〇という曲のカバーが聞きたい」というお客さんからの声を無視していました。要するに ”そこにある需要” から顔を背けていたんですね。自分がやりたいことではないという理由で。
カバー曲を歌ったら負けだとすら思っていたんです。カバー曲の力でお客さんに振り向いてもらうなんて自分の力じゃない、と。
しかし違ったんです。
僕がカバーを歌ったとしても、僕のオリジナル性は失われることはありません。そして、お客さんが喜んでくれることには、できる限り寄り添うことで、音楽活動はどんどん広がっていくんです。
それがわかったとき、これまで多くのチャンスを失ってきたことに気づきました。「自分はオリジナルアーティストだ」というプライドが、僕自身を殻に閉じ込め、活動範囲を狭めていたんですね。
同様に、あなたにも譲れないものがあるはずです。その譲れないもの=プライドにより、あなたの活動を狭めているものが無いか、自分と向き合う時間が必要です。
活動を狭めても良いから譲れない!という答えが出せれば、それは捨て去るものではなく、守るべきプライドです。大切にしてください。
プライドを捨てる=イエスマンになることではない
冒頭で少し触れましたが、プライドを全部捨てる必要はまったくありません。信念を曲げ、苦しんで活動することに幸せは無いでしょう。
重要なことは、捨てられる部分と、捨てられない部分のバランスを取ることです。
僕の場合は、お客さんのためにカバー曲の演奏を取り入れることを受け入れました。「オリジナルしか演奏しない」というプライドを捨てたんですね。
ただし、お客さんの要求を鵜呑みにし、なんでも屋になる必要はありません。僕にも苦手な曲(カバーしたくない曲)はあります。
受け入れがたい曲を、気持ちを病んでまで歌う必要はありません。お客さんも、ミュージシャンに苦しんでまで自分の好きな曲を歌ってもらおうとは思わないでしょう。
このあたりはシビアに考える必要があります。歌以外にも、音楽を続けていると様々な状況で「それをすべきか、それともやめておくべきか」という選択を迫られます。まさに人生のようですね。
選択のたびに自分を押し込める道を選んでしまっては、お客さんにとって都合の良いミュージシャンになるだけ。僕らが目指す姿は「お客さんにとって替えのきかないミュージシャン/アーティスト」です。
なんでも聞いてくれるイエスマンになる必要はありません。
一番好きな音楽で病まないためにも、自分のプライドのリミットがどこにあるのかは、慎重に考えたいですね。
素直であれ
もうひとつ「プライド」に関して伝える内容があります。
それは音楽活動の進め方について「素直な心で取り組む」ということ。ミュージシャン/アーティストは個性の強い人が多いですが、なんでもかんでも我流で取り組むことで損することも多いんですね。
この手引でも、僕の体験談やノウハウをたくさん提供してきましたが、「とりあえずやってみよう」と素直な心で取り組める方って少ないと思うんです。
かつての僕もそうでした。人と違うこと、自分でがむしゃらにやることを良しとし、他人のアドバイスや世に出ているノウハウを信じることができませんでした。
結果、僕の音楽人生はどうだったでしょう?
実に遠回りしてきた気がします。
世の中に出ている情報の精査は必要ですが、なにもかも1から自分で構築し確かめなければ気が済まない性格は少し損な気がします。
信じられる情報や指導者を必死で探し、そのノウハウを愚直に実行する。そんな素直さがミュージシャンには必要でしょう。
素直になるには捨てなければならないプライドもあるはずです。「他人の言うことなど聞きたくない」と言う気持ちを持ち続けることで失うものは無いか、今一度自分の胸に聞いてみてください。
さいごに
全12章に分けて、僕が自由な音楽活動を楽しんでいる秘訣をお伝えしてきました。「愛されるミュージシャンになる心の手引」いかがだったでしょうか?
「こんなの音楽活動のノウハウじゃない」と思われたかもしれません。しかし、これらがノウハウじゃないとしたら、僕がライブオファーをいただける理由はなんでしょう?決して音楽性や地域性だけじゃないはずです。
どんな音楽をやるかも戦略的には大切ですが、もっと大切なことは「誰がその音楽をやっているか」です。「あなただからライブのオファーを出したい」。そういわれるミュージシャンにならなくては、いつまでも次の段階に行けません。
音楽は無くても生きていけるもの。お客さんひとりひとりの感性や価値観にゆだねるものを僕らは提供していこうとしているのです。「聞きたい」「会いたい」と言ってもらえる理由を、ひとつずつ増やしていきたいですね。
最後までお読みいただきありがとうございました。
それでは!
音楽家|たまいやすゆき